フォーラム経緯  
 

 2008年に起こった世界金融危機は、日本のみならず世界経済に大きな影響を与えました。それは社会主義を保ちながらも欧米式資本主義に傾倒し、未曾有の勢いで成長を遂げる中国経済にも大いなる振り返りの機会を与えました。市場機会を捉えるために奔走する中国経営者たちは、これを機に欧米式資本主義に問いを投げかけはじめ、持続的発展を遂げる企業の育成と価値観を探求しはじめました。そして、隣国である日本に目を向け、日本から経営理念や価値観を学ぼうとの姿勢を持ち始めました。その一方、日本企業も、生き残りをかけて成長市場である隣国中国での発展を望む中で、市場での更なる打開を求めており、複雑な市場の中での成功のための智慧と経験を求めています。この意味において、日中は互いにその智慧と経験を共有することができます。

 アジアの経済発展は世界から注目を集めています。世界第二、第三の経済大国として、日本と中国は世界経済地図の中でより重要な役割を演じるようになると見込まれます。現在の経済情勢の下、如何に相互理解を促進し、協力関係を深め、信頼を構築し、アジア・世界経済の安定した発展に共に貢献するのか、これは日中経営者が共通して注目する話題であります。

 「日中経営者フォーラム」は、日中のトップ経営者が平等の立場で集い、本音で語り合い、そして智慧の共有を図り、共に経験を学び合うことを目指しています。第一回目のフォーラムは2009年に北京で開催され、ワールドワイド・シティ・グループ(環球都市集団)による発足と声がけにより、志を同じくする100名強の日中トップ経営者が集い、日中主要組織(経済同友会、国家発展改革委員会など)の支持で、開催に至りました。日中経営者フォーラムの名誉顧問は小林陽太郎氏、日本側実行委員長は長谷川閑史氏が務めている。

 
 

対話文明が世界の持続的発展を創出する

 中国で生まれた世界市民として、過去20年の経営生涯において、私は中国から日本、日本からアメリカに渡り、そしてアメリカからアジア、アジアから中国への帰還を経験しました。そしてその中で、多種多様な価値観と企業文化の衝突を自ら経験し、その中で「開かれた対話」を通じた相互理解と相互学習の重要性を深く実感しました。

 今日、21世紀はアジアの世紀だと言われていますが、アジアの核心となる中国と日本には、相互の理解不足と信頼の危機が存在しています。もし根本的にこの不信を解消しようとするならば、互いの文化形成の基礎となっている思想と価値観に注目すべきであり、また率直に誠意を持って、開かれた対話によって同じアジア国家として共同の価値観を探求しなくてはなりません。

 経営学第一人者であるピーター・ドラッカーは90年代において既に、近代日本成功の最も重要な要素は「ソーシャル・イノベーション」であり、これは柔道の精神により「和魂洋才」の思想が生まれたからであると指摘しています。私はさらに日本のソーシャル・イノベーションの源泉は東アジア文化に根ざした「共生」の価値観だと考えます。それは正に松下幸之助が創業初期に提唱した「企業は社会の公器である」の有名な言葉に凝縮されます。

  200年の動乱を経て、開放後30年の中国は、現在21世紀をリードする新商業文明を探索していますが、私はグローバル化の今日において、新文明は中国の力だけで誕生することは無理であり、他国との十分な交流と対話の中で創られると確信しています。例えば、価値観の違いによって、中国が今目指している「調和社会」の文明は「多様性」を重んじるアメリカの移民社会では現実的ではないと誤解されています。

 そのため、我々の微力をもって、日中企業家同士の開放且つ寛容な心持ちでの開かれた対話を促進したく、それにより、真の21世紀世界レベルの持続的発展をリードする新文明を創出できることを祈っております。

尹銘深(チャールズ・イン)
ワールドワイド・シティ・グループ 最高経営責任者