日中・アジア経営者フォーラム(CJCF)
日本、中国とアジアの大企業トップ経営者らが集まる「2014日中・アジア経営者フォーラム」が6月4日に都内で開催
「日中の枠超えたアジア発グローバル企業を創出する」

  日本、中国とアジアの大企業トップ経営者らが集まる「日中・アジア経営者フォーラム」(中国・香港の投資会社、環球都市集団が主催、学校法人国際大学が共催、共同実行委員長は環球都市集団(WCH)の尹銘深・董事長および長谷川閑史・経済同友会代表幹事)が都内で今月開かれ、日中関係が冷え込む状況を追い払うかのように日中・アジア大企業トップ経営者約60名が出席した。フォーラムの創設者である尹銘深・董事長がフォーラムの意義と日中経営者同士の信頼構築と行動の重要性をあまさず語り、会場から多くの賛同の声が上がった。 
 日中の経営者が学び合い、信 頼を築く場として2009年から始まったこのフォーラムは、環球都市集団(WCH)が主催、学校法人国際大学が共催、公益社団法人経済同友会の後援を受け、本年度は6月4日に都内で開催された。今回が4回目となる同フォーラムは(同フォーラムの意義の詳細に ついてはこちらを参照)例年日本・中国経営者トップが一堂に会し、日中の枠を 越えたアジア発グローバル企業の創出に向けて対話し、智恵や経営課題を共有することで経営者間の学び合いと相互理解を促進している。2014年度には中国の程永華駐日大使と元中国大使 の丹羽宇一郎氏も来賓として挨拶を行い、経済界の対話と信頼の構築の重要性について語った。-日経BPアジアビジネスオンライン〈AsiaBiz〉アジア発グローバル企業を創出するには・「2014日中・アジア経営者フォーラム(CJCF)」第2回リポート(2014年06月30日)より引用・抜粋・編集


(第4回「日中・アジア経営者フォーラム」に参集した日中アジアの大企業のトップら)

 冒頭の主催者挨拶で、環球都市集団の尹銘深(Charles Yin)董事長が日中関係の現状について憂慮を示し 、「この要の時期に、経済界のリーダーとして私たちは立ち上がるべき。真摯な対話を通して理解を深め、相互信頼を深めなければならない。社会に対し、ポジティブな声を共にあげよう」と、フォーラムの意義を強調すると共に会場に呼びかけた。続いて、尹氏とともにフォーラム共同実行委員長を務める武田薬品工業の長谷川閑史社長が「中国 と日本は世界第2位、第3位の経済大国であり、どう協力をし合うかが世界全体に大きな影響を与えることも、ある意味では自覚をしてやっていかなければいけない」と述べ、日中の結束を呼びかけた。
 中国では数十年間の経済高度成長により、短期間で企業が急成長している。第1部のセッションでは、そういった環境下におき、いかに効率的に人財を活用すれば良いのか、肥大化する組織をいかに効率的に管理すればいいのかをテーマに、かつて大企業の危機を乗り越えた経営者らが自身の経験を会場の経営者と共有した。東京電力会長、JFEホールディングス相談役の数土文夫氏は新しい価値を創造する重要性について分析。「新しい、いままでにない価値を創造していくためには、ダイバーシティを持たないとだめだ。ダイバーシティは多様 性ではなく『異質性』。異質性を取り込む度量、能力がないと企業としては成り立たないし、幹部、トップとして、存在価値はない」と強調した。続いて、日立製作所の川村隆取締役が、1990年から2010年まで続いた低迷から日立がいかに脱却したかを会場の経営者と共有した。「事業を自然体でやると、普通の木と同じように幹のほかに細かい枝 がいっぱい出てくる。(自社は)できるだけスピードを持って、残すべき事業と削り落とす事業を決め、落とす方を落として、その人間を再教育して残すべき事業に向け直した」と、日立における危機からの脱却の取り込みを紹介した。第1部の最後に、G&S Global Advisors Inc.の橘・フクシマ・咲江社長は、企業の存続に一番重要なのは継承プランだと強調した。さらに、企業のライフサイクルの中で継続的に成長するために、「オーナーシップ」「ガバナンスの体制」「継承プラン」といった三つの課題が重要だと指摘した。


(日中・アジア経営者フォーラムの創設者である環球都市集団董事長の尹銘深氏による開会の挨拶)

 第2部では、日中の経営者らがM&Aについて熱い議論を交わし、知恵を共有した。武田薬品工業の長谷川閑史社長は、自社の実際のM&A案件を紹介したうえで、「一番のポイントを言えば、買収はギャップ・フィリング、自分たちに足りないところを補う」と述べ、M&Aの基本的な戦略を紹介した。LIXILグループの藤森義明社長兼CEOは「各大陸・各国において一番大きなブランドを獲得する、われわれよりも収益力の高いビジネスを買うこと」という基本的な買収コンセプトを紹介。そのうえで重要なのは「いろいろなバックグラウンドを持つ人たちの違いを受け入れ、その違いで力とエネルギーと創造力が生まれるような文化を生み、いろいろな人たちがみな同じ機会を与えられること」と強調した。一方、三井物産の槍田松瑩会長は「M&Aで大事なことは、まず、その国・ 地域にしっかり根ざすこと。雇用だけではなく、地元の利益にもしっかり貢献する事業体を目指さなければ永続しない。その次に、経営理念の浸透とグループとしての一体感の醸成だ。これらを実行していく時に、まさに丁寧なコミュニケーション、あるいは文化、商習慣が違うので、よく話し合って乗り越えていくことが大事だ」と 強調した。最後に、永新企業集団(ノーベル・エンタープライズ)の曹其鏞副董事長が今の日中関係について「歴史的にドイツとフランスは宿敵同士だったが、今はきちんと緊密で前向きな作業環境を構築できている。彼らにできるのだから日本と中国も同じことができないわけはない。健全なパートナーシップを日中間で組むことができれば、1+1=3の結果をもたらしてくれる」と述べ、日中協力の重要性を唱えた。


(中国駐日本特命全権大使程永華氏による来賓挨拶) 

 この第2部のシンポジウムで環球都市集団の尹銘深董事長は「アジアには、現在、新しいグローバルなM&Aの波が寄せて来ている」と述べ、「今回のM&Aは、波としては昔とは違う。昔の波は主導権を持っていたのが欧米企業だが、今回、新しく立った波はアジアがリードしている」と、その特徴を指摘した。さらに、「特に中国のような新興市場国が大きな役割を果たしている」と強調し、「昨年、中国の対外的なM&Aの事例は1232件あり、金額にして562億ドルに上る。伸び率は30%」と紹介した。また、「かつては天然資源目当て、もしくはエネルギー目当ての買収が目立ったが、最近は多角化が進んでいて、高付加価値の企業、消費材やハイテク製造、文化的なものにまで乗り出している。昔は国営企業が大勢を占めていたが、最近は民間企業が大きな買収を行うようになってきており、その台頭が著しい」と、中国のM&A事情を分析。さらに、「国境を越えたM&Aの際に、相手国の政治的影響とリスク及び規制の壁への認識が足りず失敗するケースも多く見てきた。特に500億円を超える案件の場合には、事前にそれを乗り越える体制と戦略が必要だ」と語った。


(資生堂の魚谷雅彦社長が企業のブランディングの重要性を強調) 

 最後の第3部のテーマは「持続的発展を遂げる企業育成」。どのように改革、イノベーションを続けていくかが、大きな課題として中国の経営者の目の前に立ちはだかる。一方、日本では100年以上の歴史を持つ企業が多く、持続可能な理念の下に行われている企業経営は、中国の企業にとって、勉強するところが数多くある。三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長執行役員は三越の340年の歴史を振り返ったうえ、20代向けの海外研修、30代向けのリベラルアーツ教育、40代向けの社内ビジネススクール、50代幹部に対するコーチング、そして外部からの採用や販売員教育など、人材を育成するために行っている様々な取り組みを紹介し、「少なくともトップとしてピックアップする前に、ある程度の人材を育てておかないと成り立たない」と述べ、人材育成に関する理念を説明した。資生堂の魚谷雅彦社長は「素晴らしい技術があっても、その技術をお客さんに伝えること、まさにマーケティング能力も同時になければ顧客価値にならない」と説明した。そのうえ、「ブランド価値はお客様が信頼してくれている証なので、持続的に企業が成長していく要素の大きな柱になる」と強調した。

 
(対話による智慧の共有というCJCFの基本理念により業種や国境を超えた企業管理と人財育成の原則が明らかに)

 フォーラムの最後に、国際大学の森正勝副理事長が閉会の挨拶を兼ねて総括した。「これから10年、20年先、アジアは間違いなく市場が一体化していく。インテグレーションされた巨大なマーケットが出てくることになる」。さらに、「日本の最大の問題は、グローバルリーダーが圧倒的に不足していること」と指摘し、「人をつくることは国をつくることであるし、人をつくることは会社をつくることである。長期的に持続可能な企業にするには、環境変化にアダプティブな組織、グローバル化に対してセンシティビティのある組織をどうやってつくっていくかがキーになる」と強調した。

 
(食事を共にする第4回「日中・アジア経営者フォーラム」に出席した大企業のトップら)