主な議題
持続的発展を遂げる企業育成 - 日本のCEOから学ぶ
Building Long-Lasting Enterprises:Wisdom of Leading CEOs in Japan
長谷川閑史 武田薬品工業株式会社 代表取締役社長

 世界で長寿企業の例を見ますと、主要国では日本の場合が飛び抜けて多く、2万社以上が100年以上の歴史を持っています。1000年以上の歴史を持っているところもあります。
日本の優良企業に共通する経営の特徴ですが、4点にまとめますと、企業理念に基づいた経営、現場の強さを引き出す経営、人づくりを重視した経営、社会性を重視した経営になります。
企業理念に基づいた経営ですが、各社のコアコンピタンスを支える企業理念を中心とした各社固有の遺伝子というものを大事にしているというのが共通点です。企業がグローバル化しても、その理念をそのまま海外のオペレーションにも浸透ざせ、徹底し、企業としての統一の価値観を形成する努力をしておられる企業が大多数です。それは何を意味しているかといえば、基本的に企業の理念は、万国共通のものであり、万民の共感を得るものが多いということです。
 次に現場の強さを引き出す経営ですが、今日までのところは日本の経営にとっては強みと言ってもよいのではないかと思います。例としてはコマツさんの「現場主義」、トヨタさんの「現地現物」、ホンダさんの「三現主義」という考え方です。日本の経営者というのは現場に非常に近いといえます。
 社会性を重視した経営からいいますと、日本は中国の思想から大きな影響を受け、おもしろいことに、中国本国よりも、朝鮮半島よりも、日本で最も定着し、花開き、真剣に人間の心に染み込んでいったように思います。その反映の結果としての小道徳として、「陰徳陽報」、「三方よし」、さらには「浮利を追わず」という三井の家訓、「所期奉公」という三菱の家訓、それから松下電器の例については中国の経営者の方からも出てきましたが、「企業は社会の公器である」という考え方が生まれ、定着し、今日に至っていると思います。

 
前田新造 株式会社資生堂 代表取締役社長

  当社の社名の資生とは、実は中国からいただいております。中国の古典『易経』の一節、「至哉坤元万物資生(至れる哉坤元万物資りて生ず)」によります。これには大地のあらゆるものを融合して新たな価値を生み出していきたいという創業者の願い、西洋の科学的な薬学と易経という東洋的な精神を融合しようとする和魂洋才の理念が込められています。
  そして、当社の企業理念は「私たちは、多くの人々との出会いを通じて、新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造します」とあります。社名にあるとおり、新たな価値を創造し、お客様のお役に立ち、社会に貢献するという創業の精神はいまも変わらず生き続け、人々の美と健康を支援するさまざまな価値の高い商品やサービスを生み出す源泉になっています。
 当社が海外に進出する際に大切にしている三つのポリシーについてご紹介したいと思います。その三つのポリシーとは、まず自社のオリジナリティーを大切にする。2番目に、現地のリソースを最大限に生かす。そして、よき企業市民として現地に根付くことです。当社の中国事業の取り組みの歩みを一言で申し上げれば、いかに資生堂というブランドの価値を高められるか、この1点に徹してきたということだと思います。単に中国での売り上げを高めることが目的であるならば、店の数を拡大すれば、一時的に前年比200%といった売り上げを確保することも不可能ではないでしょう。しかし私たちは、よき企業市民として、すべての中国女性に美しくなっていただく活動を地道に継続的に実践し、資生堂ブランドが中国の方々にとって憧れのブランドとして認めてもらえることが大切であり、それがテーマにあった持続的発展を可能にする私たちの活動だと考えています。

 
森稔 森ビル株式会社 代表取締役社長

 森ビルは街づくりをしています。GDPの後ろには、そこに就業する人たちのスタイルが変わっていくわけですが、いまや東京も3次産業に従事する人が85%になっています。ロンドン、パリ、ニューヨークも80台後半から90%を超しています。上海はまだ56%ですが、これから3次化、サービス産業化がどんどん進んでいくと思います。シンガポールは、ほかの都市のように大都市と地方という分類ではなくて、大都市そのものが国ですから、バランスは多少違ってくるのかもしれません。そのようなことで、大都市の集中もどんどん進んでくるというかたちにもなります。
 都市化が進むと移動時間が非常にかかる。東京は平均、通勤するのに片道70分、往復2時間半ぐらいかかる。皆3時間も4時間も電車や自動車の中にいるとなると、人生のうち4分の1ぐらいは監獄にいるのと同じじゃないかというような生活を強いられるということになっていたので、その点でも3次産業化してくると、それではまずい。発展するわけはないんです。そういうこともあって、都心に居住する。つまり、大都市の中心部は業務だけではなくて、住宅も商業も入れる、あるいは遊ぶ施設、学ぶ施設、ショッピングやダイニング、医療施設なども入れていかなければいけないということにもなってきました。 もう一つの変化は少子高齢化です。これも日本ではものすごい勢いで進んでいます。中国ではやっとこれからだそうですが、高齢者は長距離を動くことは大変で、幼児でもそうですが、コンパクトに街をつくっていくことが大事だとなりました。
 そのため、森ビルとしては、80年代、70年代からオーバーラップして、ナンバービルを建てる(ビルの数を増やす)のから、職住遊一体型の街を創ることをはじめました。

 
杜維明 北京大学人文研究院院長

  中日間というのはかなり長い間、交流が頻繁に行われてきました。さまざまな対話が行われてきています。貿易とか戦略、人民元の切り上げといった問題が話し合われてきました。しかし厳格に言えば、これは対話ではなく、協議であったり、勝負であったり、抗争であったりするものです。対話というのは、文化的な自覚を高めるものであってほしい。それが本当のウィン・ウィンであり、トリプルウィンの状況であると思います。文化的な自覚というのは、中国、日本がお互いに学び合い、交流し合うことができる大変重要な基礎となるものです。
  東アジア全体の社会は儒教文化圏という、昔から今日に至るまで儒教の倫理の影響を受けているところがあります。大変重要な場所です。この伝統は孫子の兵法、韓非子、あるいは帝王学とも関係があり、もっと深いものであると思います。この伝統的なものにはいくつかの特色があります。三つ申し上げます。かなり寛容な文明であるということです。また、お互いに学習し合う文明であるとも言えます。もっと言わなければならない考え方としては、正義もあると思います。権利以外にも、責任もある。
  東アジアで体現されている価値がアジアの価値というのは大きな欠点がある。すなわち人間関係であったり、権威主義であったり。アジアの価値というのは地域的な価値であり、西側の世界的な価値と交流して本当の世界的な価値が習得できると皆感じています。中国の企業のエリートたちが、日本の企業のエリートたちとの対話を通じることによって、いまの中国企業の基本的な価値、企業界にいながら政治、社会に関心を持つ人たちが教養ある経営者としての精神を学んでほしいと思っています。